ここ数年の傾向ですが、タイヤを太くする流れがあります。
そのことに関して、私の考えを記してみます。
私的な考えなので、お聞き流しください。

過去にイタリア、ビットリア社の方が来店されて、その時にいろいろとお話を伺うことが出来たのですが、昔からチューブラータイヤは19-21C で作られていて、私は全く不便を感じない。本当に23C またはそれ以上が必要なのかとの問いに、より快適だからとの答えが。
でも、小柄な日本人は体重もそれほどではなく、路面も良く太いタイヤが必要とは思わないと。
結論はホィールメーカーからのオーダーにその原因があるとのことでした。

カーボンホィールは一般に整形温度が150℃。
内圧が150psi程度で過熱整形して作られます。
それが、日本のように長い急勾配の道では、下り時に150℃近くまでリム温度が上昇。
カーボン繊維は1000℃を超えても問題ありませんが、整形時に使用するレジン(プラスチック樹脂の一部)が整形温度に近くなると緩んできて、リム表面の変形につながるのです。
また、リムにブレーキゴムが溶けて張り付くと、その部分だけ高温になってきて変形を引き起こします。
元々、カーボンリムは加工時に切削加工をするわけではありませんので、表面にウェーブはあるものです。
ダイアルゲージで測定しても、概ね0.5mm以下でそのようなことはありますので、それほど神経質になる必要はありませんし、私たちもそこそこのところに振れ取り作業しています。

カーボンホィールの多くのメーカーが、この熱変形の対策として幅広のリムを採用し始めました。
幅広になると、タイヤも太くしなければならず、フロントフォークの形状も変え、リヤーブレーキの部分も、太い車輪が入るようにフレーム形状を見直さなければなりません。
また、従来のブレーキキャリパーでは、開きっぱなしの位置でブレーキをかけるようなものですから、設計値を超えますので効率のよい動作が期待できません。
これほど関連した不具合が予想されるにもかかわらず、リム幅を広くしたいのが、カーボンリムメーカーなのです。

対策として、太いタイヤが装着できるクリアランスを大きくとったフレーム。
ブレーキキャリパーのゴム部分を薄くしたブレーキシューを装着することで、太いリム、太いタイヤの装着を可能にしました。

今回のツールドフランス。
優勝候補といわれていた選手が、早々にリタイア。
雨の中で面白いように滑っていくシーンをご覧になっていると思います。
これはタイヤが悪いわけでもなく、選手が悪いわけでもなく、私は太いタイヤにその理由があると思っています。
わかりやすく一例で説明すると、一般に車用のスノータイヤは、細いほど良くグリップします。
タイヤメーカーは、細いタイヤでは縦方向に伸びた接地面積に対して、太いタイヤでは横方向に広く接地するため、かえって接地面積は減ると説明しています。
しかしこれは本当でしょうか。
空気圧に違いがなければ、接地面積はタイヤの太さに比例して広くなっていくのが通例です。
そして太いタイヤでは、前面投影面積が増えるため、空力的にも不利になります。
太いタイヤではエアボリュームが増すため、快適さは増しますが、コーナリングではタイヤの変形増大により横剛性が不足します。

選手は長い間の経験でマシンをコントロールしているのでしょう。
その感覚と、タイヤの滑り感がミスマッチしているから、このようにコースアウトしてしまうシーンが多いのかもしれません。

あくまでも私の推測であることをお断りしておきます。

レジンが問題であることは、先に述べました。
しかし、F-1などのレーシングカーでは、真っ赤に燃えるような色をしたカーボン製ディスクブレーキが存在します。
最先端の戦闘機や、宇宙空間では高温にさらされる個所でもカーボンも積極的に利用されていますが、これは通常のレジンではなく耐熱性のレジンを採用しているから出来る技なのです。
東邦テナックスの方が、お客様としてご来店されたり、台湾の工場でお会いしたりとお話を伺う機会がありましたが、この耐熱性レジンは軍事転用可能な技術であるため、海外に持ち出すことが出来ないそうです
これがあれば、もっと良いカーボンリムが生産可能になるのですが。
そこで、EQUINOX社は自社で開発をしました。
SPシリーズ等に採用されているレジンは、正にこの耐熱性レジンなのです。

太いタイヤは、ロングライドなどの快適性を重視する場合や、積載量の多いツーリング車には残りますが、今後レースシーンからは消えて行くものと予言しておきます。
なぜなら、DISKブレーキがUCIで認可になり次第、リムを広くする理由がなくなるからです。

ピナレッロを作っている工場の副社長の話を思い出します。
私はISPタイプをやらないし、BBもスレッドがベストだと。
中国のOEM工場の先を見据えたお話は、4-5年前でした。

TREKがBB後のブレーキ位置を見直してきました。
前輪の跳ね上げる水がまともにかかる部分です。
雨のレースシーンで、まともにブレーキが効く訳もなく、始めて雑誌で見たときは疑問を感じていましたが、案の定でした。購入したお客様にはどのように説明するのでしょう。
エアロを意識したモデルなら、この位置も、そしてダイレクトマウントも非常に効率的で、このデザインは良いと思います。しかし全天候のロードレースでは、ほとんど前ブレーキだけの制動になってしまうことでしょう。

ダイレクトマウントブレーキは、もっと今後推奨されてきて良いと思います。
ブレーキピポットとブレーキ面を距離的に近づけることで、ブレーキの剛性を上げることになり、コントロールしやすくなるからです。
昔のランドナーでも、センタープルの直付け工作は、高い精度を要求されるため非常に高価で、高級車の定番工作でした。
ブレーキを横から見た場合、車輪の回転にブレーキシューを当てると、回転方向に持っていかれそうになり、その力をフレームやフォークで、僅か数十ミリのところで抑えるのがダイレクトマウントで、従来のブレーキは47mmも上の取り付け部分まで、ブレーキの部品だけで力をこらえなければなりません。
その取り付け部分、特にリヤーブレーキの取り付けブリッジで、ねじれ方向の強度が不足すると、どんなに剛性の高いブレーキをつけても車輪の回転方向の力に対してブレーキシューの位置が動いてしまうために、ロックしやすくコントロールが不安定になってしまいます。
一般にブレーキキャリパーを要求グレードに交換すると、ブレーキのフィーリングが大きく向上するため、体感したお客様は驚かれるのがこの理由です。

ちょっと脱線しました。
昨日は、新しいCampagnoloの新製品発表会に行ってきましたので、これも後ほどレポートいたしますが、今回は大きく変わっています。
どうぞお楽しみに。

ライトサイクルブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
急に熱くなって来ましたので、充分ご注意ください。